Dominance&Submission
グレープジュース
湯上りの温かい手が、バスローブの帯を優しく丁寧に解く。同時に唇を重ねられ、桜井僚はわずかに息を弾ませながら接吻した。 解かれた帯が脇に退けられ、はだけられる瞬間、思わず緊張する。 これから行う事に対する少しの緊張と、興奮に、身体が反応してしまったからだ。 現れた雄のしるしに神取鷹久はほんの少し口端を緩め、そっとベッドに寝かせた。 気まずそうに見上げてくる少年の眼差しとしばし戯れ、神取はちらりと下部を見やった。 視線の動きに僚はびくりと身を強張らせた。もう、一度見られている。それも、尻を叩かれて興奮したところをだ。痛い思いをしたのに感じてしまい、ごまかしきれないほど反応したところを見られた。今更…とは思うが、ほんの数回唇を合わせただけでこんなに感じてしまうのがたまらなく恥ずかしかった。 けれど、男の強い眼差しに捕らわれるとどうしても息が上がってしまう。肌の表面がぴりぴりと張って、内側がじわりと熱くなるのだ。 ここで、このベッドで初めてした時から、あの時からずっと一人でする時は必ず男の顔を思い浮かべた。 唇や手の感触を思い浮かべ、叩かれた衝撃を何度も頭に過ぎらせた。 でも本物の手の方がずっとずっと心地良い。 髪を撫でる手に目を閉じて浸り、僚は小さくため息を吐いた。 頬に手が添えられ、また唇が重ねられる。するりと舌が入り込んできて、ゆっくりと口内を舐められた。もう、それだけで身体がとろけそうになった。思わず男の首にしがみ付く。 段々と息を荒げながらも僚は男の舌を貪り、何度も吸い付いた。舌の裏側を舐められるとたちまちぞくっと首筋に疼きが走り、身体が震えた。すると頬に添えられていた男の手が動き、大丈夫と宥めるように優しく肩を撫でた。 たったそれだけで、たまらなく泣きたい気分になった。 男は穏やかに身体をさすりながら、感じる箇所を指先でたどった。背骨の横をなぞられると、また首筋が疼き、また男が宥める。 泣きたい気持ちはますます強まり、浅い呼吸を繰り返しながら僚はゆるく首を振った。 「だめ!」 とうとう乳首を摘ままれ、たまらずに僚は鋭い声を上げた。しがみ付いていた腕を解き押しやろうとするが、男は離れず、少し意地悪そうに笑って敏感な突起を責め続けた。 「う、く……」 全身を力ませ、男の責めに耐える。身を捩っても手はついてきて、押し潰したり指先で転がしたり遊んだ。 「大丈夫、ほら…力を抜いて」 その間もゆるゆると弄られる。でも、と言いかけ、僚は恐々と弛緩した。 が、淡い吐息と共に片方を唇で挟まれ、高い悲鳴と共に僚は仰け反った。じっとしていられず、シーツに擦り付けるようにして身悶える。 「良い反応だね。大好きだよ」 男は楽しげに言った。もちろん嗤う意図がないのは顔を見れば一目瞭然だが、なんだか悔しくて僚は歯噛みした。声を出すまいと抵抗するが、男の手はそれ以上に巧みに動き、やすやすと突破した。 すでに知られているところに加え、新たに掘り出された快感に揺さぶられる内、僚は素直に感じる証を口から絶え間なく紡ぎ出した。 良い声だと耳元で囁かれる。うっとりと聞き惚れる響きにたまらなく嬉しくなり、丹念に撫でさする指に身を委ねて僚は喘ぎ続けた。 時々ふっと、そんな声をもらす自分に恥ずかしくなる。以前は嘘ばかり演技ばかりだったから、自分でもこんな甘ったるい声が出てしまうのかと頭の芯がかっと熱くなるのだ。 しかしそれも、男の大きな手のひらに身体を撫でられるとどうでもよくなって、もっと感じたいもっと浸りたいもっと味わいたいと溺れてゆく。 「あぁっ……」 硬く反り返ったそれを、男の手がゆっくりと包み込む。待ち望んだ刺激に僚は胸を喘がせ、動くままに腰を揺すった。 「い……いきそう」 半ば無意識に呟く。 ぼんやりとした声に神取はふと笑い、そっと手を動かした。すっかり先走りの涎で濡れ、少し扱くだけでいやらしい音がした。早くいかせてくれとばかりにびくびくとわなないている。 「やぁっ!」 戯れに親指で先端を舐めると、たちまち僚は高い声と共に首を反らせた。 神取は笑みを深めた。本当に、一つひとつの反応がたまらない。肌はしっとりと手に馴染み、うっすらと鼻孔をくすぐる汗の匂いさえ愛しい。 「飲んでもいい?」 「え、あ……」 耳元で尋ねると、僚は眉根を寄せて見上げてきた。 突然で言葉が飲み込めなかったかと、神取は視線でもう一度示した。 男の目がちらりと己の下部を向いたのを見て、僚は慌てて首を振った。 「だ、だめ」 顔を真っ赤にして僚は拒んだ。 しかし、言葉ほど身体は抵抗しなかった。 神取は頬に軽く口付け、飲ませてと頼んだ。 「だめ……だめ」 肩を掴んでくるが、力はほとんど入っていない。それで彼の本当の答えを知った神取は、どうしても駄目かと聞きながら肌に何度も接吻した。ゆっくりと顔を下にずらしていく。 へその辺りにたどりつくと、くすぐったさからかびくりと腹が引き締まった。その反応が何とも言えず可愛くて、もう一度見たいと同じように唇を寄せた。 「だ、め……たかひさ」 はあはあと荒い息の合間に甘い声がして、鼓膜を犯す。脳天が痺れるほどの快感に男はひと時目を閉じて浸った。 「本当に?」 最後に一度目を見合わせる。 僚は首を曲げて見やり、唇を引き結んだ。素直にしてほしいと言えなかった自分など、とっくに見透かされているだろう。今言えばまだ間に合うと気が急くが、どうしても喉から先に言葉が行ってくれないのだ。 「まだ怖い?」 「ち…ちがう!」 慌てて首を振る。男に対する怖さなんてない。男が怖い訳ではないのだ。そんな事、決してない。 「君が本当に嫌な事は、しないよ」 「……して」 僚は何度か喘いだ後、声を絞り出した。自分から望む事に猛烈な恥ずかしさが込み上げてきたが、びっくりするほど熱い粘膜に包まれた途端、頭の芯が甘く痺れて、どうでもよくなった。 急激に射精欲がせり上がってきて、耳の奥で、うるさいほどの鼓動が響いた。 「だめ……ごめんなさい!」 二度目のごめんなさいを言い終わると同時に、僚は口中に熱いものを放った。滲んだ涙を瞬きで追い払いながら、慌てて男を窺う。 ちょうど、自分のものを飲み込んでいるところだった。 深い息継ぎを繰り返しながら、僚は何と言って詫びるべきか言葉を探した。ただただ、男の唇に触れるしかなかった。 神取は以前と同じように、触れてきた指先に軽く歯を立てた。そうすると、申し訳なさそうに打ち沈んでいる顔にぱっと劣情が散るのだ。唇からもれる済まなそうな響きも心をくすぐる。 「ごめんなさい……」 何を謝る事があるのかと、神取はそっと頭を撫でた。僚はひどく言いづらそうにしながらも、ずっとしたかったのだと心情を吐露した。恥ずかしさから顔を背け、もごもごと口を動かす様に震えるほどの愛しさが込み上げてくる。 少し抵抗があったが強引に自分の方に向けさせ、神取は深く口付けた。一瞬びくりと反応した後、僚は腕を回して抱きしめた。 ぴちゃぴちゃと舌を絡めて戯れる。 また、僚の身体が大きく反応した。男の手が、再び下部に触れたのだ。今度はもっと奥の方、ひっそりと息づく小さな口に、指先を押し当てる。 「楽にして」 唇の上で囁き、慎重に指を押し進める。そうしながら彼の咥内に舌を差し入れ、どちらにも刺激を与える。 「ん、ん……ふっ」 じわじわと入り込んでくる二つに、僚は小刻みに震えを放った。 きつく眉根を寄せ、二つの快感にうろたえる様を目の端に愉しみながら、神取は接吻に耽った。後孔が咥え込んだ異物に慣れた頃合いに、そっと指先で内襞をくすぐる。 「んぅっ!」 びくんと腰が跳ねた。 反応に気を良くし、神取は彼が感じる部分をゆっくりと指先で転がした。 「あぁやだっ!」 咄嗟に言葉が弾ける。僚は慌てて首を振って打ち消した。ぞくぞくっと這い上がってくるような快感に自然と腰が動いた。 「ここが好きだったね」 何度も、まるで呼吸するように締め付けてくる内部の動きを愉しみながら、神取はゆっくりと抜き差しを繰り返した。 「あぁ…あ、あ……ん!」 目に見えて呼吸が荒くなる。内側からの刺激を受けて、今しがた達して満足した僚のそれが見る間に張り詰めていった。 僚は今にも泣きそうに顔を歪め、窺うように男を見上げた。 「ここは好き?」 尋ねると、ひどく答えづらそうにしながらも僚は頷いた。 唇が何事か呟く。 怖い、と言ったのだ。 まだそうであろうと、神取は肌を撫でた。 「大丈夫、大丈夫だ。ほら、気持ちいいと言ってごらん」 抱き付いてくる腕や頭をそっと撫で、快感が強すぎて受け止めきれず怖がる僚を優しく宥める。 気持ちいいと声がもれるが、怯えの方が色濃く、ただなぞっているだけなのは明らかだった。 神取は焦らずじっくりと言って聞かせた。 「もう怖い事は決して起きない。傷付ける者はいない。気持ちいい事だけだ」 「う、ん……あ、あ…あぁ!」 三本目の指が、ゆっくりとしかし力強く入り込んできた。その様がやけにくっきりと頭に浮かび、そんなものを思い浮かべようとする己のいやらしさに恥じ入る。しかし一度浮かんだものは中々消えず、それに合わせて感覚も鋭敏になっていくようだった。 小さな口を一杯に拡げられる感触は奇妙なもので、苦しいのにそれが気持ち良く、ずっしり重く圧し掛かるような強い快感があった。 もうあと一歩で痛みに届く、その寸前の、むず痒いようなぴりぴりとした緊張にしようもなく喉が引き攣った。 「……きもちいい」 息を詰めて僚はもらした。口に出すと、より快感が増すようだった。嬲られる腰を揺すりながら、僚は気持ちいいと繰り返した。 先よりずっと熱が感じられた。神取はほっとして、嬉しさのまま彼を愛撫した。 ああ、気持ちいい、鷹久。 うっとりとした声に聞き惚れ、何度も肌を貪る。埋め込んだ指を根元まで押し込み、さらにぐいぐいと抉ると、少し苦しそうなあえぎが部屋を満たした。 嗚呼もうたまらない。 彼に入れたくてたまらなくなっている。 「……い、入れて」 たまらないのは僚も同じだった。一度目に味わったあの、深くまで力強く開かれさらに奥を抉られる身体が弾けんばかりの快感を、また味わいたくてしようもない。 だから前の時のように、自分で足を開いて抱え、男にねだる。 「入れて……もう」 三本の指をくわえ、きつそうに喘いでいる僚の後孔が露わになる。何とも淫靡な眺めに腹の底が痛いほど疼き、神取は喉を鳴らした。 入れてほしいとねだりながら、指も離したくないと駄々をこねる様にからかいの一つも交えたかったが、まだそれは早い。そうやって彼を泣かすのはもう少し先の事。今は、こちらが怖くない人間である事を彼に信じてもらう為に動こう。 神取は指を引き抜こうとしたが、締め付ける力は思いの外強かった。刺激は僚にも響き、自身が困らせているのだとすぐに気付いて真っ赤な顔でうろたえるが、どうしてよいやらわからないと、潤んだ瞳を向けてきた。 神取はひと息笑い、不慣れな少年を安心させる為ゆっくり頭を撫でた。彼はそうされると、なんとも心地良さそうに目を細めてうっとりした顔を見せた。彼の好きな事の一つ。早くに見つけておいてよかったと思いながら、顔を寄せる。 吐息で気付き、僚は目を閉じたまま唇を迎えた。 神取は咥内を大きく舐りながら、程よく力が抜けたところで静かに指を引いた。 「ん……」 もれた声が残念そうに聞こえたのは、都合の良い妄想だろうか。そんな事を考えながら覆いかぶさり、自身の先端をひたりと押し当てる。 また声がする、今度は、少し焦ったような、高い喘ぎ。背骨にじいんと沁み込む甘い響きに、神取はしばし浸った。押し当てている後孔はひくひくと蠢き、まるでキスを繰り返しているようだった。 「たかひさ……」 縋るような声を合図に、男は力強く腰を進めた。 「あぁ――!」 待ち望んだ瞬間に、僚は喉から一杯に声を迸らせた。身体は喜びにぶるぶると震え、止めようがなかった。 動きは男にも伝わっていた。絶妙な力で内襞が絞るように絡み付いてきて、自然と喘ぎがもれた。 僚の腕が、がむしゃらにしがみついてくる。男はすぐに抱き返し、根元まで埋めて一旦動きを止めた。しばし、固まったように過ごす。それでも内部は息づくように収縮を繰り返し、熱さと蠢きに男は目を眩ませた。 「うぅ……」 やがて、詰めていた息を吐くように僚が呻いた。 「苦しい?」 わずかに首を振った。 辛そうに眉根を寄せているが、口元は微かにほころんでいた。吸い寄せられるようにして神取は唇を塞いだ。ん、と甘い声がもれ、また背筋が疼いた。 ゆっくり舌を舐め合いながら、ゆっくり動く。 時々思い出したように、背中に回った僚の手が動いた。肌に沁み込む熱に背骨が痺れて仕方がない。 「……動くよ」 断りを入れ、神取は静かに腰を前後させた。じれったいほどゆっくりと、抜き去るほどに腰を引き、少しせっかちに押し込む。 二度、三度目までは歯を食いしばって堪えていた僚だが、四度目の打ち込みにとうとう大きく息を吐き出し、続いてきた長い快感に間延びしたよがり声をあげた。 鼓膜を犯す甘い響きに頬を緩め、神取は同じ動きを繰り返した。 「ああぅ――気持ちいい」 「……私も気持ちいいよ」 彼の中は複雑に蠢き、きゅうきゅうと締め上げたかと思うとふっと緩んでまた食い付いてくる。悦びに震えるざわめきが伝わってきて、動かずにはいられない。 きつそうに寄っていた眉間からふっと力が抜けたのを見て取ると、神取はより力強く奥を責めた。 たちまち僚は大きく身を悶えさせ突き込みに応えた。 「や、あ…おく、おく――ああぁ!」 一度口を開くと、僚はもう我慢せず感情を迸らせた。 頬を薄く染め、忙しない息遣いに唇を震わせながら、素直に快感に喘ぐ。身体の底から込み上げてくる悦びを声や仕草でもって伝えてくる少年に、神取はたまらない感動を覚えた。 欲するまま腰を打ち込む。 何度も何度も激しく揺さぶられ、僚は身悶えながら歓喜の声を迸らせた。見れば彼の下腹は今にもはちきれそうに育ち切った雄があり、先端からだらだらと涎を零していた。 神取はそれをやんわりと手の中に包み込んだ。 「ひいぃっ!」 突然の強い刺激に僚はびくびくっと大きくわななき、喉を喘がせた。 「あ、あ……気持ちいい…いい」 「……どこが好き?」 自ら腰を揺すってねだってくる僚にふと笑い、神取は尋ねた。 「ん…うぅ……」 先端を擦られるのがたまらないと、僚は素直に答えた。 神取はその通りにしながら、ゆっくり腰をうねらせた。 「こっちは?」 「んん――!」 殊更大きな声が上がる。眦に涙を滲ませ、愉悦に蕩けた顔を見せる僚に、どこまでも興奮が募った。聞いたくせに答えられない状況に追い込むように、神取は小刻みに奥を穿った。 「や、やあぁ……やだ!」 たちまち僚は困惑した表情で首を振りたくった。動きに合わせて左耳の白金がちかちかと瞬き、男を制する。 「た、たかひさ……」 やめてくれと訴えるかのように突き出された僚の片手を取り、詫びを込めて指先に接吻する。 神取はゆっくりとした動きに切り替えた。 息遣いがいくらか落ち着く。 「中は、どこが好き?」 「ああぁ…あ…奥、奥…好き」 「奥を突かれるとどんな風になる?」 僚はしばらく荒い息を繰り返した後、途切れ途切れに綴った。 頭が痺れて、ぶわって弾けそうになる感じ。ああすごい。すごく幸せ。 ふわふわとした動きで見上げてくる僚を見つめ返し、神取は微笑んだ。 「私も幸せだよ」 甘い低音で綴られたひと言にうっとりと頬を緩め、僚はより強く男に掴まった。自ら腰を押し付けるようにして快感を貪り、ねだる。 ねだられるまま、神取は腰を打ち付けた。同時に手にしたそれをゆるゆると扱き、絶頂へと誘った。 「うっ……ああぁ――だめ、だめ!」 ぞっとするほどの歓びが背筋をせり上がってくる。一気に追い詰められ、僚は戸惑いの声を上げた。 「大丈夫だ、ほら……我慢せずにいきなさい」 「あうぅ……」 僚は低く呻いた。どうして首を振ってしまうのか自分でもわからなかった。 いく、いく。歯を食いしばって繰り返し、最後に男の名を呼ぶ。 瞬間、ばっと白い光が閃いたのを見る。 男は最後の最後まで搾り取るように手を動かし、僚の身体がひときわ大きく震えると、そっと手を離した。外の動きとは別に内奥はいつまでももぞもぞと蠢き、包み込んだ男の怒漲を甘く妖しくしゃぶった。 今すぐ出してしまいたかったが、もっと楽しみたい気持ちも強くあった。 「ああ……」 大きなため息とともに、僚は全身の力を抜いた。 かろうじて引っかかっているだけのようになった僚の腕をそっとほどくと、神取は一旦身体を離した。 不安げに見上げてくる少年に軽く口付け、肩を支えるようにして這わせる。 「………」 僚はごくりと喉を鳴らした。後ろからの視線は初めてではない。以前も…そこで小さく唸る。また、以前の事が頭を過ぎり、思い出したくない記憶の浮上にわずかに顔をしかめる。 振り払うようにして肩越しに振り返り、今、自分を抱いているのはだれか、強く胸に刻み付ける。 「たかひさ……」 口に出して求める。 男はすぐに応えて、唇を重ねてきた。また大きな手で身体を撫でられ、優しいあたたかさに自然と頬が緩んだ。その顔がわずかに歪む。 男が再び、入り込んできたのだ。 硬い、熱い怒漲に押し出されるように、甘ったるい声が口から零れた。思いがけず高い己の声はやはり恥ずかしく、慌てて口を押さえる。 「良い声……好きだよ」 耳元の囁きに僚はちらりと目を上げすぐに逸らせた。そんな事はないと小さく首を振る。 「じゃあもう、聞かせてくれない?」 「ち…ちが――」 少しがっかりした声に慌てて見上げる。 ゆったりと微笑んでいる支配者の貌にしばし見惚れ、僚はそっとため息を吐いた。 ゆっくりと男は動き出した。熱く張り詰めたものがより深くまで押し込まれ、少し苦しいほどの圧迫感に頭がくらくらと眩んだ。腰を両側からしっかりと掴まれるのも初めてで、今そこにあるのは男のあの手だと思うと、快感が急激に増したように思えた。 「あっ、あっ……あぁ!」 腰が抜けそうなほどの悦楽に翻弄され、僚は恥ずかしさも忘れてよがった。 一回ずつ深くまで押し込まれ、更に腰を使ってぐりぐりと抉られる。閉じきれなくなった口の端から涎が垂れ、僚は慌てて拭い顔をシーツに押し付けた。 大きく深い動きは一転して小刻みな突き上げに変わり、音がするほど腰を打ち付けられ、僚はたまらないとばかりに大きく身をくねらせた。 「あ、あ…やぁ……おく、いいぃ!」 もじもじと交互に脚を動かす。 神取は背に覆いかぶさり、腕を回して胸に触れた。 「や、だめ!」 直前に察して身を揺する僚にふと笑い、逃さず指先に摘まむ。 ああ、と何とも言えぬ甘い声と共に、奥の方がきゅっと締まった。押し開くようにして男は腰を打ち付け、更に声を上げさせた。 「やぁ、あ…おく!」 「ここが好きだね」 尋ねると僚はシーツに伏せたまま何度も頷いた。 「いい子だ」 言葉と共に彼の尻を叩く。 「あっ……!」 びっくりしたような声が弾けた。と共に内部が反射的に締まる。思った通りの反応に満足し、神取は狙って穿った。 「ああっ!」 僚は頭を反らせた。遅れて、尻を叩かれたと理解する。痛みはない。ただ、びっくりした。その直後に襲ってきた強烈な、痺れるような刺激に目の前がちかちかと瞬く。全身の力が抜けたようになって、息をするのが精一杯になる。必死に喘いだ。 それから何度か、同じ事が繰り返された。 肌の上で軽く弾ける衝撃に見舞われる度、深奥に甘い痺れが走り、息も出来ないほどの快感に締め上げられる。 「も……やめて」 気付けば涙が溢れていた。しかし拭う気力もない。注ぎ込まれる歓びに翻弄され、ただ震えるしかなかった。 「あたまが、おかしくなる……」 「つらい?」 「わかんな……」 首を振る。つらくはない。こんな風にされた事がないので戸惑ってしまうが、つらさはない。正直に言えば少しだけ苦しい。そして怖い。 「怖くない……大丈夫、大丈夫」 耳朶に触れる囁きを、僚は無意識に繰り返した。 「だいじょうぶ……」 「そう、大丈夫……気持ちいい?」 僚はこくりと頷いた。声のする方に顔を向け、気持ちいいと繰り返す。 「いい子だ」 優しい響きに、全身がじんわりと熱くなるのが感じられた。 繋がったまま、ゆっくりと抱き起される。 「ああ、あ…ふかい」 男にもたれ、僚は呟いた。 「もっとよくしてあげよう」 膝を抱えられゆっくりと揺さぶられて、背筋を駆け上るじんじんした疼きに身体が弾けそうになる。 「だめ、いく――いく!」 「いいよ……見せて」 「だめ…やだ、あああぁ――も、いく…い、いく――!」 僚は髪を振り乱し、繰り返し訴えながら白液を噴き上げた。 中の深いところまで、びくびくとした震えが伝わってきた。神取はため息をもらし、しばし内奥のざわめきを味わった。 僚の荒い息遣いがいくらか鎮まる頃、足を抱え直し、またゆっくりと身体を揺さぶる。 「や、だ…たかひさ……もう、もっ」 「大丈夫だから、もっと感じてごらん…ほら、声を出して」 「ん、ん、んぅ…や、こわい…こわい……」 大丈夫と繰り返しながら、神取は首筋に唇を寄せた。 「ん……たかひさ?」 恐々と名前を呼んでくる僚にそうだと答え、今度は耳朶に口付ける。 淡い接触にもぶるぶると敏感に震える様が可愛くて、神取は何度も唇を押し付けた。 そうする内、段々と余計な強張りは抜けていった。 僚はしなやかに腕を回し、男の頭を抱いた。 「好きだよ…君の声も、仕草も、手も」 「……俺も好き。すごくあたたかい」 「これは」 神取はくすりと笑い、一度突き上げた。 ひゃ、と可愛い声を上げ、すぐに僚は首を竦めて恥ずかしがった。身を縮めたまま、小さく頷く。一杯に首を曲げて男を見やり、好きと呟く。 何度も目を瞬かせながら熱心に見つめてくるのがたまらなく愛しく、抑えきれない情動に突かれるまま神取は彼を組み敷き深く貪った。 抑えねばと思うが、自分勝手な動きにも健気に耐える様を見せる眼下の少年に、もう我慢できなかった。 「な、なか……出して」 「いいかい……?」 ひっひっと鳴きながら僚は頷いた。男の激しさに目が眩む。腰が砕けそうなほど、感じすぎて、どこかに流されてしまいそうだ。シーツを握り込み何とか堪える。 と、男の大きな手が包み込んできた。僚は無我夢中で握り返した。 「んっ……」 汗ばみ、ひどく熱くなった僚の手に包み込まれたのをきっかけに、男は深くに熱を放った。 ひときわ強く腰を突き出され、そのまま滾る想いを注ぎ込まれ、僚は首を反らせて鳴いた。奥の方でびくびくとのたうっているのが感じられ、気付けば笑みが浮かんでいた。 「好き……」 半ば無意識に呟き、僚は何度も身を震わせた。 |
一度目のように、記憶が途切れがちになる事はなかった。 洗面所で洗い髪を拭いながら、僚は思い返した。 あの時、恐らくは男の手を煩わせた事だろう。どんなに思い出そうとしても無理で、気が付いたら綺麗に身体を洗ってベッドに寝転んでいた。あの状態で自分にそれが出来る訳もなく、だから男の厄介になったのは間違いない。 はっきりと聞くのはどうしてもためらわれ、自分の推測でしかないが、間違いはないだろう。 でも今度は、最初から最後までしっかり自分の手で済ます事が出来た。浴槽をまたぐ時に支えの手を借りたが、気付いたらベッドで休んでいた、という事態にはならなかった。 初めて男のマンションに泊まるという楽しみをしっかり味わう事が出来た。 広い広い浴室と大きな浴槽に驚きを抑え切れず、もう上がる合図に非常に残念に思った。 広さもさることながら、窓にも目を見張った。 アパートの風呂場にもついているが、比ではないのだ。実際に開ける事が出来る部分は少しだが、それを取り囲むように浴槽の高さから天井までガラスがはめ込まれていて、堪らないほどの開放感があった。思わず腹の底がぞくぞくしてしまった。 五階から夜の街並みを眺める、それも風呂に浸かりながらなんて、もちろん初めてだ。 何か言いたいのだが、肝心の言葉が出てこない。 ただただぽかんと口を開けて眺めているだけだった。 いいね、ここ。 思い返すと随分素っ気ない言葉で、ともすると皮肉にも聞こえるようなひと言を発してしまったが、男はきちんと真意を読み取って、中々のものだろうと、嬉しげに言った。そして、また入りにおいでと誘った。 風呂掃除を請け負うから、ぜひまた入らせてほしかった。 出る時は本当に名残惜しかった。次の機会がもう待ち遠しい。 「髪を乾かそうか」 ドライヤーを用意しながら、男が傍に立つ。 そんな事をさせるなんて申し訳ないと僚は手を振るが、男はにこにこしながらも有無を言わさず椅子に座らせ、スイッチを入れた。 始めは恐縮した僚だが、男の手に優しく撫でられるのにはどうにも弱く、また嬉しくて、気付けばうきうきとした気分になっていた。 洗面所の鏡越しに男を見つめる。やがて男も気付いて、微笑んだ。 「ありがと」 音に紛れて声は届きにくかったが、口の動きでわかったようだ。どういたしましてと男の口が綴る。 「さあ、乾いたよ」 「さんきゅ」 真上の男を、にこにこと見上げる。 と、丁寧な動きで髪を撫でられ、僚は息を詰めた。予感の通り、唇が触れてきた。 今の今まで大きな音が占めていた分、静かすぎて、互いの鼓動が聞こえるのではないかと錯覚する。 触れた時と同じようにゆっくり離れ、男は言った。 「温かいものと冷たいもの、どちらにする」 ひと通り候補を聞いた僚は、すっかり乾いた喉を潤したくて、冷たい方を選んだ。 「グレープジュースがいい」 「承知した。すぐに用意するから、それまでソファーで休んでおいで」 「うん」 肩に男の手がかかり、あたたかさに僚はそっと笑みを浮かべた。 |